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メダル王女の城周辺にて-2

 西日は既に、水平線の向こうに飲み込まれていた。
 船を停泊させてある桟橋までは、まだ遠い。メダル王の城に戻っても、魔物に奪われた命を呼び戻す術を持つ神父はいない。
 ≪移動呪文≫を使おうにも、この呪文は術者の身体と、移動させたい物や人間をつなぐ必要がある。今体力を消耗しているエイトが、一度に三人を運ぶのは無理だ。
 一人ずつ≪移動呪文≫で街まで運び、教会にて蘇生を行う手もあるが、その間に置き去りにした仲間が獣型の魔物に食われてしまったら元も子もない。魂の入れ物である身体だけは、なんとしても確保しなければならない。

 ――せめて、ククールが無事だったなら。

 エイトは物言わぬ彼を横たわらせた。常の白く透き通るような肌は、――男であることが勿体無いくらい綺麗だと、実はエイトは密かに思っている――血液の凝固によって淀んだ土気色になっている。苦痛の表情はなく、静謐さだけを湛えているところが余計に痛ましい。
 彼を戦線から外し、ヤンガスとゼシカを蘇生するよう指示を出したのは自分だ。しかし相手の出方や性質、技を見抜けずに攻めが後手になった。結果はこの様だ。
 己ではなくククールが無事だったなら、今と同じ状況になったとしてもなんら問題はなかったのだ。対象者一人の魂を肉体に戻し、死の淵より蘇らせる≪蘇生呪文≫。彼なら容易くこの呪文が使えたのだから。

 ――僕が生き残っても。

 自責の念ばかりが心を支配する。身体が思うように動かなくなってくる。目の前が暗くなる。このままではまずい。どんな困難が降り掛かろうとも、絶望だけは決してしまいと誓ったはずなのに。
 
(お前には回復系の素質があるみたいだしさ――)

 暗く潰された脳裏に、いつかの夜、火の番をしながら語り合ったククールの姿が浮かんだ。
 炎の色を反射する銀色の髪が、きらきらしていてとても綺麗だ。ああ、やっぱり君は格好好いと思う、そう、それで、君は火にくべるための枝を一本手に取るんだ。それから――

 瞬間、エイトの視界がクリアになった。そうだ、あの時ククールは話をしてくれた。呪文の基礎や複雑な法則を、ほどいて置き換えて、エイトが理解を示すまで。
 重要なのは魔力と精神の間の均衡と、とても強く、濃い心像。この手で触れられるくらい、そこに「在る」と信じて疑う余地のないほど、鮮やかな心像だ。
 エイトは横たわるククールの、胸に手のひらをかざした。

 ――君ほど端然には出来ないけれど。

 思い描いた心に寄り添い従って、エイトが詠唱を紡ぎだす。慈しみだけを音にして、言の葉は淀みなく流れるように。
 エイトの周囲を、柔らかい光が覆った。光はエイトの手に球状に集束すると、ククールの身に音も無く納まった。
 光が消え、周囲は夕闇の色を取り戻す。ククールの肌が、死の色から徐々に回復していく。
 銀の睫が震えて、氷色の瞳が薄く開いた。



 深く青い水底から、呼吸を求めて浮上するような感覚、とでも表現すれば、一番近いのだろうか。
 ククールはゆっくりと瞼を開けた。視界を埋め尽くす空は、深い群青色を湛えて星の灯りをちりばめはじめている。
 それから、傍らに見慣れた――見飽きることは決してない――橙色のバンダナを視界に捉えて、エイトの方に顔を向けた。
 エイトは消耗した、けれど安堵の表情を刷いて、淡く微笑んだ。うっかり心臓が跳ねる。まさか悟られるわけがないのに、誤魔化すように上体を起こした。

「……よかった、せいこう、した……」

 常の明朗な彼とはかけ離れた、舌足らずな声。言い終わるか終わらないかのうちに、ふらりと均衡を崩し、エイトがククールの胸に倒れこんだ。
 抱きつかれていると表現してもさして差異がないこの姿勢に、ククールは内心ひどく動揺した。

「エイト?」

 肩を揺すって呼びかけても、応答がない。気を失ったようだ。見ればエイトの身体には裂傷が血を滲ませていくつも残っている。それを認識してやっと、己が意識を無くす直前の状況を思い出した。
 ヤンガスとゼシカの蘇生のため詠唱を始めた途端、意識が途絶えた。敵の死の踊りによって命が潰えたと考えて間違いはない。
 しかし、蘇生の呪文を習得しているのは己だけだったはずだが、先ほどのエイトの言葉を鑑みるに、どうやら≪蘇生呪文≫を一か八かで紡いで唱えたようだ。

「……エイト」

 気を失うほど精神を磨耗させたということは、呪文発動後の心像を思い描く行程だけで≪蘇生呪文≫を使ったということだ。一歩間違えれば自我が保てなくなる、かなり強引な詠唱方法だ。
 しかしエイトにそんな無茶をさせたのは、他でもない自分の責任でもある。周囲への警戒を疎かにし、詠唱に入った背後を突かれて息絶えてしまったのだから。

 ――けれど。

 ククールはエイトの背に腕をまわして抱きしめた。裂傷を治癒するために≪完全回復≫をエイトに施す。憔悴の色が濃かったエイトの表情が、いくらか和らいだ。
 理屈は解っている。己を最優先に蘇生させたのは、他に同じ呪文を使えるものがいないから。たとえエイトが結果的に倒れても、パーティの復活は難しいものではなくなる。効率を第一に考慮した、単純な優先順位だ。
 頭で解っていても、そして少しばかり不謹慎だとも思うけれど、エイトが他の誰より己を先に生き返らせたその事実が、心を高鳴らせて仕様が無かった。

 ――すまん、ヤンガス、そしてゼシカ。必ずお前らを生き返らせてやる。だからもう少し、このままでいさせろ。

 ククールは胸中で二人に向けて、謝罪なのか要求なのか、身勝手な語句を並べ立ててから、エイトの細身の身体をさらに引き寄せた。



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いや、さっさと生き返らせたれよククールっていうお話でした(笑)

これは2012年3月に、私がドラクエ8プレイ中に実際に遭遇した出来事がベースです。
メダル王女の城周辺って、タップデビルっていうモンスターが出てくるじゃないですか。一気に4体くらい。
そいつらの死の踊りとメガザルダンスの応酬に酷く苦戦させられましてね…SSではエイト君が生き残ってる
話になってますが、実際はヤンガス除く他三人がいっせいに即死させられたんですよ…
ねーよ!って思いましたね。こんなところで全滅とかねーから!!っていう。
この後魔よけの聖印を作ってククールにプレゼントすればいいんじゃないかなエイト君は。
無意識にククールさんの心を乱せばいいと思うよエイト君は。

あ、あと記念すべきクク主CPSS第一弾となりました(笑)
ククールが超一方的に恋愛感情持ってるだけと言うひどい仕上がりですんませんしたーーっ
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